わが妻、卑弥呼と魏の鏡

先日、「魏から来た使者である」と主張する者がやってきた。
しかし、どうも怪しい。
「小さな木の船で気が遠くなるような距離を漕いで来た。実際、3回くらい気を失って、そのたびに硬い泡みたいなのが口から出た」
とか言うのだけれど、その割に、着衣は乱れていなかった。
「いやいや、これでも乱れている方ですよ。このへんとかほつれてますよね?」
などと、さも大変な船旅だったことのように言うのだが、隣村から来たようにしか見えなかった。


魏はどんな国なのかと聞くと、楽しいようでいて、楽しくないときもある、広いと思うが、意外に狭くもある、一言で言うと、ちょっと忘れがたい国ですよ、と、どこにでも当てはまるようなことを言うので、ますます怪しい。
男は、これは魏の王からの贈り物である、と、懐から鉄の円盤を取り出した。
「これは鏡といって、水などを見なくても気軽に姿が見えるものなんだ。卑弥呼様に渡せば、とても喜ぶと思う」
と誇らしげだ。
これをやるから、はるばる魏の国から来たので、何か寄こせという話になり、仕方ないので乾いた鮑を3枚与えた。鮑は貴重品なので、3枚のうち2枚は泥を固めて作った偽物の鮑だった。


男が去ってから鏡を見ようと思ったが、男の懐が臭かったらしく、鏡もひどく臭かった。ここまで臭かったら、いくら姿が映るといえども、使用に耐えないし、どんな姿が映っても、醜い印象しか与えることがないだろうから、とりあえず匂いが取れるまで、土に埋めておくことにした。


埋めるときに卑弥呼がぼくのことを呼んだので、急いで卑弥呼のところに行ったら、
「わたしのどこが好きか」
と聞くので、頭がよくて美しいところ、と答え、急いで戻った。埋めた場所に印をつけておこうと思ったのに、どこに埋めたかわからなくなってしまい、鏡はあきらめることにした。使い方も聞かないうちになくしてしまったのは残念だけれど、その後、本物とおぼしき魏の使者がやってきて、丈夫で無臭の鏡をくれた。さすがに本物の魏の使者は長旅のおかげでほとんど全裸状態。彼こそはまさに魏の使者であると信用するにふさわしく、一件落着した。