わが妻、卑弥呼と食器洗い機

ご存じの通り、土器というものは、油がこびりついたらなかなか落ちない。しかし、わが妻、卑弥呼のきれい好きは度を越していて、いつも新品の食器を使わないと満足しなかった。それゆえ、食事のたびに土器を焼かねばならず、湿度の高い日などは、焼くのが間に合わず、生焼けの柔らかい土器で食事をとらねばならない場合もあった。鯛ならともかく、ナマコなどを盛りつけた日には、どこまでが土器でどこまでがナマコかわからず、ザラザラした食感に苛立つ羽目になった。

ある日、土器の破片で口の中を切った卑弥呼は、口から血を流しながら、ぼくのところにやってきた。

「もう新しい食器を毎回使うのはうんざり!食器を洗う係を連れてきて!」

自分が新しい食器作りを命じたのに被害者面とは…と思ったものの、口から血を流しながらの要求なら、どんな要求でも呑まざるを得ない。

ぼくが食器洗い係に任命したのは、名もない男だったが、体毛が濃く、体中が毛に覆われていて、誰だかわからなかった。いや、誰だかわからない人間は一人しかいないので、誰だかわからないことで誰だかわかったという方が正確だろう。毛だらけの男を、木船の上に横たわらせて、ぐるぐる回らせた。そこに砂と水と、使用済みの土器を入れた。

最初は勢いよく回っていて、うまく洗えていた。土器ばかりか、木船も作りたてみたいに見えるくらいだったが、翌日、わが妻、卑弥呼の体調が思わしくなく、痰のできそこないのような白い粒が米に混じって入っていたらしく、それが鼻に入った。どれだけ回っても吐かなかった彼が、あまりの臭さに吐いてしまった。船の中は緑色に染まった。彼は食べる物がなくて、道端の草を食べていたようで不憫だった。たちまち彼も土器も汚れてしまい、食器洗い男は、すぐにお役ご免となった。彼はまた、どこかの草を食べて暮らしているのだろう。

とりあえず、柔らかい土器でも吐瀉物のかかった土器よりはいいだろうということで、元通り、新しい土器を使うことになった。